九州大学 | 藤田直子研究室学生ブログ

―学生全員が毎週1記事ずつ更新する 研究室の記録です―

九州大学 「環境・遺産デザインプロジェクト」 成果発表会 「宗像で考え 宗像に提案する ~日の里から世界遺産まで~」

こんにちは。九州大学芸術工学部環境設計学科2年の山下です。

 

先日2月14日に、福岡県宗像市日の里地区コミュニティセンター 多目的ホールにて、九州大学大学院芸術工学府環境遺産デザインコースと宗像市の主催による、研究成果発表会が開催されました。

 

九州大学芸術工学研究院は、2015 年度の「環境・遺産デザインプロジェクト」に宗像市を選び、地域資源の価値を将来に継承できる持続的な地域環境の維持・創成手法を学ぶためのプロジェクト研究を⾏ってきたそうです。

昨年5⽉には受講する全⼤学院⽣が現地調査を実施。4グループに分かれテーマ設定した研究結果がまとまり、本研究成果発表会の開催に至り、九州大学院生が、環境・歴史的な景観と都市景観をデザインし、宗像市まちづくりに提案しました。

 

発表会は三部構成となっており、第一部が基調講演、第二部が学生4グループの発表、第三部がパネルディスカッションでした。

 

第一部では、九州大学大学院芸術工学研究院の藤原惠洋教授により、「創造⼒と想像⼒を活かした宗像よみがえりへのエール〜九州⼤学『環境・遺産デザインプロジェクト』がめざす持続可能な地域再⽣へ向けて〜」と題して基調講演が行われました。

 

昭和36年ごろから続々と宗像で行われた都市計画は、今も残っている状態がある中、持続可能なまちづくりを目指し、市民全員が幸せになるにはどのような課題を乗り越えていかなければならないのか。大島の世界遺産登録への期待と不安も募るいま、地域の課題として

1、文脈の再生(私たちはどこから来たのか、どこへ行こうとしているのか)

2、矜持の再生(自分の故郷はどんなところなのか。この地で育った者、

       この地を気に入った者の地域の誇りとは何か)

3、紐帯の再生(お互いの人の絆、人間関係)

 

の3つについて考えていかなければならないという提案をされました。

 

第二部のグループ発表では、4グループ、4つの異なるテーマの研究発表が行われました。

一つ目のグループは「空き家問題解消 5丁目再生を核とした日の里版CCRC」というテーマでの発表でした。

”生涯暮らしたいふるさと日の里”という基本コンセプトの下で、高齢者コミュニティCCRCを導入したまちづくりを行おうということで様々な提案がありました。中でも私が特に興味を持ったのは団地の空き部屋をホテルとして提供し、団地住民がホテルマンになるという提案でした。現代でもシェアハウスなどが流行しており、それをよく理解している若者ならではの提案だと感じました。ほかにもそのような環境があれば、日の里へ住みたいとより一層思えるような素晴らしい提案ばかりでした。

 

二つ目のグループは「幸福度と居住意思の調査から見えてきた日の里の現在と未来」というテーマでの発表した。

 

実際に宗像市日の里に住む700戸に対して幸福度アンケートを行った結果をもとに分析・考察がなされていました。市民活動と地域のつながりが幸福度と居住意思の両方に効果があるという結論が導かれ、またこの発表が実際にアンケートに回答した日の里の方々のまさに目の前で行われたという点でとても価値のある時間だった感じました。

 

3つ目のグループでは、東郷駅前商店街活性化のために、「夜遊(よゆう)、余裕がある東郷駅再生デザイン」が提案されました。

東郷駅には赤間駅と比較して空き店舗が多い、パブリックスペースが不足しているなどの問題がある中、それらを再生・活用するために、複合文化施設「SHARE and DREAM」を建てよう、というのが主な提案でした。この施設の存在により、買い物から帰宅までの間に市民同士の交流を生むという計画で、具体的なプランや3D モデルが示されていました。参加者は高齢者の方が多く、芸工生の技術を駆使した発表に、終始驚嘆の声が聞こえてきました。こちらのグループはメンバーが全員留学生の方であり、その独特な視点も相まって、宗像に新風を吹き込むような斬新な提案のように感じられました。

 

4つ目のグループは「世界遺産に向けた地域づくりの可能性~神湊から大島まで~」というテーマのもと、神湊と大島のそれぞれについて、今後観光地としてどのような魅力を体験させることができるかという提案がありました。

神湊では徒歩によって様々な魅力を体験させるために、海沿いに徒歩での観光ルートをつくっていくというものでした。また、大島では、その人口の大部分を漁師の方が占めているという背景のもと、アワビに付加価値をつけてブランド化させたり、漁師の活躍を演劇化してそれを漁師自身が演じるというもの、また外国人のための拠点を設けるため、大島でマラソン大会を開催するなど、大島の魅力を十分に取り入れた提案がありました。

宗像市にとって世界遺産というのは今最も価値のある存在であり、大島などの豊かな自然、そしてその顕著な普遍的価値をすべての人に共有するためにも、このグループの発表は参加していた宗像市民の方々に非常に多くのことを気づかせたように感じました。

 

第三部では「みんなで考えよう宗像の未来 〜⽇の⾥から世界遺産まで〜 」というテーマでパネルディスカッションがおこなわれました。

パネリストとして

牧 敦司 (株式会社醇建築まちづくり研究所 代表取締役所⻑/宗像市都市再生事業推進協議会 会⻑)
⻄村正則 (UR都市機構九州支社 住宅経営部 団地マネージャー)
今川泰志 (⽇の⾥地区コミュニティ運営協議会 会⻑)
藤原惠洋 (九州大学大学院芸術工学研究院 教授)
近藤加代子(九州大学大学院芸術工学研究院 准教授)
河野克也 (宗像市 都市戦略室⻑)

の6人の方々がお招きされ、一部と二部の内容を踏まえて宗像市を今後どのように発展させていくべきかが話し合われました。学生の発表に対するフィードバックとして多くの対案などが与えられました。

例えば、団地をホテルにするのは良い提案だが、サービスをや運営をだけで行うのは難しいから、そこをどうするかということ。大島でのマラソンはいっそトライアスロンにして大々的にやろうなど。

また、どのグループの発表にも言えることとしてアイデアをもっと経済に結び付ける必要があるという話もありました。

学生の発表がパネルディスカッションを通して徐々に具体性を帯びていく様子を、見ていて実感しました。

 

今回の成果発表会を見て、私は宗像市の未来をこんなにも多くの人が真剣に考えているのかと感銘を受けました。それは、この会がまさに宗像のコミュニティセンターで行われ、主催者側と参加者の市民の方々の距離の近さを間近で体感したからだと思います。また、院生の方々が大学院で何を学んでいるかということを知るよい機会にもなりました。これに刺激を受けて、自分もこれからの勉学に努めていきたいです。研究院の方々にもこのような機会を与えてくださったことに本当に感謝したいです。ありがとうございました。